大阪高等裁判所 平成3年(う)1102号 判決 1992年5月26日
被告人 N・J(昭47.2.24生)
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役1年8月に処する。
原審における未決勾留日数中60日を右刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人○○作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する(弁護人は、被告人作成の控訴趣意書は陳述しない、と述べた。)。
論旨は、要するに、量刑不当を主張する。そこで、所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも参酌して検討すると、本件は、被告人が、(1)少年Aと共謀の上、<1>CがBからコンポを買い、8万円を支払ったのに、同人からコンポを渡してもらえないという噂を耳にし、右Cから一応の依頼を取りつけた上で、Bを追い回していたが、逃げられていたところ、たまたま同人を見つけ、「お前ヤクザなめとんのか」と怒号してこもごも手拳で同人の顔面を殴打した共同暴行や、<2>Bから金員を喝取しようと企て、同人を近くの空き地に連れ込み、正座させ被告人がその顔面を手拳で数回殴打する等の暴行を加えてBを畏怖させ金員を喝取しようとしたが、同人が警察に届け出たためその目的を遂げなかった恐喝未遂のほか、(2)被告人の普通乗用自動車に同乗させ連れ回っていたBが信号待ちで停車した際に逃げ出そうとしたことに激昂して果物ナイフで同人の左大腿部に切りつけ全治約14日間を要する傷害を負わせた傷害、(3)右A及び少年Dと共謀の上、通行中の被害者2名を取り囲みナイフを突きつけるなどして脅迫し、あるいは右Dらがナイフを突きつけて暴行脅迫して畏怖している通行中の被害者から金員を喝取しようとし、さらに、通行中の被害者2名のうちの1名の顔面を手拳で殴打し、両名を脅迫して両名を畏怖させ、合計被害者5名から、所持する現金を喝取しただけでなく、カードで、現金を引き出させ、あるいはブレスレット等やジーパン等衣類を購入させてそれらを喝取した恐喝の事案であって、喝取した現金は合計44万円余、物品も合計ブレスレット1本ほか17点、時価にして15万円余に上り、犯行の態様は、計画的で、中には凶器を使用した犯行もあり、いずれの犯行も執拗で、犯行の回数も少なくなく、合計すると被害額も軽微ともいえない。被告人は、共犯者中では年長であって本件一連の犯行において主導的であり、しかも、逮捕監禁、恐喝の非行により在宅試験観察に付されているにもかかわらず、又もや同じ様な本件各犯行に及んだもので、被害弁償は何らされておらず、被告人の刑事責任は決して軽いとはいえない。
ところで、所論は、被告人の身上関係からみて、被告人に対し少年院送致等の保護処分ではなく、逆送による刑事処分にしたのは明らかに行き過ぎがあり、可塑性に富む少年の処遇としては極めて不適切であると主張する。確かに、被告人は、本件各犯行時はもちろん、原判決宣告時においても少年であったことのほか、関係証拠によれば、被告人が幼少時の交通事故に起因する障害等級三級の身体障害者であることに加え、父親の生活態度にも問題があって家庭環境が必ずしも恵まれず、こうした事情が被告人の人格形成に大きくかかわったこと、これまで交通短期保護観察を受けたり、少年鑑別所に収容されたりしたことはあっても、他に施設収容経験はもとより、一般の保護観察を受けたこともないこと等の事実が認められる。さらに、当審で取調べた少年調査記録により認められる被告人の資質や、被告人の両親が被告人の監督に熱意を示していること等考慮すると、所論のいうように、神戸家庭裁判所において少年院に送致して矯正教育による最後の更生の機会を被告人に与えるとか、それがなくても原裁判所として、少年法55条により本件を家庭裁判所へ移送する余地もなかったとはいえない(原審では、こうした点は争点とされず、少年調査記録の取調べもない。)。
しかしながら、関係証拠によれば、被告人は、在宅試験観察(平成2年5月決定)に従わず家出するなどして、本件各犯行を反復しており、その犯行の内容も前示のとおり悪質であること、年長少年であったこと等に照らすと、被告人に対する神戸家庭裁判所や原審の措置をもって、所論のいうように極めて不適切なものであるとまでいうことはできない。また、こうした事情に照らし、被告人に対して保護観察付きであっても刑の執行を猶予する余地は到底見出し難く、原判決が刑の執行猶予を付さなかったことはやむをえない措置として是認できる。しかし、以上の諸事情に照らせば、被告人を懲役1年6月以上3年以下に処した原判決の量刑(求刑2年以上4年以下)は、刑期の点において重すぎるといわなければならない。論旨は、結局この限度において理由がある。
そこで、刑事訴訟法397条1項、381条により原判決を破棄し、同法400条ただし書により、さらに次のとおり判決する。
原判決の認定した事実(ただし、罪となるべき事実冒頭の「被告人は、」とある次の「少年であるが、」を除く。)に原判決の挙示する法令(少年法52条1項を除く。)を適用し(なお、当審における訴訟費用についても刑事訴訟法181条1項ただし書を適用する。)、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 高橋通延 萩原昌三郎)